オケ編成のゲーム音楽4選+α
この記事はなまおじ(@namaozi)さんの「楽曲オタク Advent Calendar 2019」18日目の記事です
半年ぶりの更新が企画に乗じた記事なのってブログ書きとしてどうなんでしょうね(自問自答)
もくじ
はじめに
はじめましての方はこんにちは、あおじいです
普段は所属のオーケストラでバイオリンを弾いています
残りは死んだようにゲームをする日々です 学生の悪い見本
楽曲オタクのインフルエンサーこと めがねこ(@srngs_menaneko) に勧められ記事を書きました
彼のねこおきばは良いですよ 読むとチオビタ並みに健康に良い
とはいえ彼並みの語彙もジャンル幅も持ち合わせていないので、他の参加者とは少し違う目線から曲を紹介してみようと思います
選出基準
つまり超主観です
大した共通点もなければ流れもありません すまんな
ただしオーケストラに馴染みのない方にも聴きやすい楽曲を選んだつもりです
楽曲オタク界隈から飛んできた皆さんにとって、こういう編成の曲に触れるきっかけくらいになれば嬉しいですね
あと大抵のフォロワーであるオケ界隈の皆さんも、ゲーム音楽とオケの親和性を味わってもらえればと
思ったより良い曲があるぞ!多分!
1. 『FINAL FANTAZY XV』(2016)
「Stand Your Ground」など / 下村陽子
国民的RPG『ファイナルファンタジー』のナンバリング最新作
音楽担当は下村陽子さん この方はマジで凄い人です
恐らく筆者と同世代のオタクなら、「森のキノコにご用心」って言葉くらいは聞いたことがあると思います
Flashで流行った『スーパーマリオRPG』の収録曲ですね あれは下村さんの楽曲です
あと近年知名度を爆上げしたToby Fox氏のRPG『Undertale』に収録されている、これまたド有名な「MEGALOVANIA」という楽曲があります
あれの曲名と曲調の元ネタである「MEGALOMANIA」は、SFC用のRPG『LIVE A LIVE』のBGMですね あれも下村さんの楽曲です
影響力ヤバすぎん?
作風は幅広いですが、中でも緊迫感のある「一流の戦闘曲」は必聴です(通称:下村節)
一般にオーケストラの楽曲は、「限られた主題(フレーズ)をいかに使い回し、かつ聴衆を飽きさせないか」が肝となります
なにせクラシックは30分も40分も長さがあるわけですし…
意外にも、ゲーム音楽はこの本質を共有しています
仮にバトルBGMの1ループがせいぜい2、3分だとしても、10回、100回…と戦闘を重ねれば、曲が耳に入る時間は数時間を軽く超えてしまうんですよね
その点、今回取り上げた「Stand Your Ground」に代表される下村さんの戦闘曲は見事です
フレーズの切り替わりや盛り上がりなど、目を見張るような緩急の付け方がなされています
つまり何時間聴いてもビックリするくらい飽きないんですよね
もし皆さんの中で「こういう戦闘曲好きだわ〜」と思う方がいれば、今までに聴いたことがあるこの類の曲の半分は下村さん作と思っていいです マジで
ちなみに下村さんの好きな作曲家はラフマニノフらしいですよ
なるほど長い息のフレーズとかドラマティックな展開とかそんな感じする…かも…?(こじつけ)
作曲者以外の話題も1つ
このゲームはBGMとプレイングとの間に違和が生じないようにエッッッグい調整が施されているそうです
大抵のゲームって、ボス戦が終わるとBGMが普通フェードアウトするじゃないですか?何事も無かったかみたいに
でも『FF15』はどのタイミングでボスを倒しても、きっちり曲が終わるんです 頭おかしいよ…
これ関連の話題は後ほどのオクトパストラベラーにもあります お楽しみに
以上、良い楽曲と演出とを両立した『FF15』の音楽周りでした
評判?知らんな 俺は3周したぞ
2. 『ゼルダの伝説 夢をみる島』 (2019、リメイク版)
「エンディング~スタッフロール」など / 編:永松亮
※ 映像はありませんが曲自体が本編のネタバレを含むかもしれません
リンクを踏む際は自己責任でどうぞ ゼルダだけに
2019年に発売されたNintendo Switchソフト
リメイク元は1998年のゲームボーイ用ソフトです それだけでエモいよね…
お察しの通りゲームボーイにはPCMなんて搭載されてないので、BGMも昔懐かしの内蔵音源でピコピコ言わせるものでした
それを20年の時を経てリメイクするってんだから、音楽は果たしてどうなってしまうのか
作編曲担当永松さんの答えは、小編成アンサンブルでした
フィールド曲のみならず村、洞窟、ボス戦など、多くの楽曲がシンプルかつ牧歌的なアレンジに仕上がっています
ゼルダシリーズの中でも異質な世界観の本作を、素朴な楽器編成とジオラマのようなグラフィックで、より魅力的にリメイクした訳ですね
(参考:『ゼルダの伝説』公式ブログより、永松氏による制作秘話「音楽の方向性」)
で、今回特に取り上げたエンディングテーマなんですが、
オーケストラとチップチューンの組み合わせって何?????????????
据置型での"第3〜4世代"と呼ばれるゲームハード(PSやスーファミあたり)までは、チャンネル数や音色の制約の中で、どれだけのBGM・SEを作り上げるかがサウンド面での勝負でした
言い方を変えれば、40も50もある楽器が生音を活かし切るオーケストラ曲とは対極に位置するのが、現在で言うチップチューンのジャンルに当たると言えます
ところが永松さんは、本編を彩ってきた楽器群が集結して一楽曲を構成する最中、突如として原作であるゲームボーイの音源をそのままブッ込む手段を取りました(リンク先3:13〜)
もし原作プレイ済ならドバドバ涙が出ること間違いないでしょう 神采配すぎる
前世代の制約を逆手に取った工夫は、音色だけでなく構成にも現れています
前述の通り、ゲームボーイの内蔵音源はお世辞にも豪華とは言えません
長い長いスタッフクレジットを支えるためには、コーダに突入するまで24小節単位で同じフレーズをループさせるしかありませんでした
リメイクでは敢えてそのループを活かし、
Tutti → 弦楽器 → 木管 → 金管 → GB音源 → Tutti
と楽器群に回させることで、"原曲リスペクト"、"本編の楽器群のカーテンコール"、"変奏曲への昇華"の3つを同時に達成しているんです どっひゃ〜〜〜〜〜〜〜〜
そんな訳で、個人的に今年1番感動したオケゲーム曲(造語)でした
耳コピしたのをさっき所属オケのアンサンブル大会で指揮したくらい好きです
めっちゃたのしかった
3. 『OCTOPATH TRAVELER』 (2018)
「OCTOPATH TRAVELER - メインテーマ -」など / 西木康智
読みは「オクトパストラベラー」
Nintendo SwitchとSteam向けソフト、ジャンルはRPGです
作編曲は西木さん
楽曲オタク界隈の皆さんに通ずるところで言えば『プリコネR』『SHOW BY ROCK!!』の一部収録曲を作編曲されている方です
この方めっっっっっっっっっっっちゃめちゃ良い曲書くのに、『OCTOPATH TRAVELER』が音楽担当初らしいですよ マジで言ってる?強すぎん??
作風としては『クロノ・トリガー』や『ファイナルファンタジー』を彷彿とさせる、王道かつ壮大なイメージが特徴です
ご本人もファミ通インタビューでFFの影響を語っていたので、あの辺が好きな人にはどストライクなはずです
(参考:『OCTOPATH TRAVELER』の音楽面インタビュー)
上記インタビューでも触れられていますが、本ゲームの音楽の面白いところは主となる楽器とテーマが主人公ごとに異なることだと思います
「登場人物ごとに決まったテーマ曲を持たせる」という手法は、もちろん他のRPGにもあるでしょう
ところが『OCTOPATH TRAVELER』のゲームタイトルが示すように、このゲームは独立した8人の主人公がパーティを組み、それぞれの目的のため各地を巡るというユニークなコンセプトを軸としています
こうなれば、作編曲の難易度はべらぼうに上がることは想像に難くありません
8人のうち1人だけテーマ曲の印象が薄かったり、他の人物とフレーズが似てしまったり…なんて事があっては困ります たまにあるよね
この点、ゲーム音楽にオーケストラを活用することはナイスな采配だと言えます
旋律を担当できる楽器は通常の編成でも15種類を超えますから、メインに据える音色の選択肢は非常に豊富です
加えて、これらの組み合わせやPerc.のパターン、また現代であれば電子音源との融合という選択肢があります
先日「音の"かたち"が視覚的イメージとして共有される」なんて話を筆者は学会で聞いてきましたが、ある意味「8人いる主人公の生い立ちや性格が楽曲だけで想像できる」なんてのもそれに近いのかも知れません
それを、オーケストラという複雑になりがちな編成で曲のシェイプに落とし込む、そんな技量が西木さんの魅力だと感じます
話は変わりますが、1. 『FINAL FANTAZY XV』の章で「ボス戦"終わり"のBGMの遷移がやべえ」という話をしました
本ゲームは「ボス戦"入り"のBGMの遷移がやべえ」です
通常のRPGでは、でっかいボスが戦闘態勢になり、キャラクターがプレイアブルになる瞬間に専用BGMに切り替わるイメージがありますよね
ところが『OCTOPATH TRAVELER』は、ボス戦前のセリフ送りから数段階を経てBGMが盛り上がり、シームレスにボス戦BGMへ移行するという、超気持ち良いセッティングがなされています
この表現はかのCRIWARE社の「ADX2」というミドルウェアにより実現されたそうです
昨年行われたCEDEC+KYUSHU 2018(ゲーム中心のデカいカンファレンス)にて、たまたま見つけたADX2のブースで話を聞く機会がありました
曰く「イベントシーンとボス戦の中間に位置する"繋ぎ"のループを2、3段階の盛り上がりの数だけ用意し、セリフ送りを遷移のトリガーとする」仕組みだそうです
きもちわりぃ〜(褒め言葉)
以上、オケがもたらすテーマ曲の幅広さと、サウンド演出の話でした
AppleMusic加入者は5秒以内にサントラを追加してください めちゃめちゃ良いので
4. 『THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER こいかぜ -彩-』 (2018)
「こいかぜ -紺碧-」など / 椎名豪
ゲーム音楽(広義)には間違いない
誰も知らなかったと思いますけど筆者はモバマスPです 誰も知らなかったと思いますけど
父さん 母さん お元気ですか
— AOZY (@BT_yaminoma) 2019年8月30日
僕は合宿で2次元アイドルの推しを公開させされるなど楽しいオーケストラ生活を送っています
初代「こいかぜ」は2012年発売の楽曲です
ゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』の登場人物である高垣楓(CV:早見沙織)の初ソロ曲ですね
作曲は椎名さん 2017年までバンダイナムコに所属されていた作曲家です
『アイドルマスター』シリーズはもちろんのこと、『テイルズ オブ』や『エースコンバット』など、数々のバンナム作品に名曲を提供し続けた、伝説的な作曲家です
オーケストラを主体とした曲を多く手掛けており、荘厳さと上質さで多くの人を魅了してきました
みなさん『TOL』の「蛍火」を聴いてください 良い曲なので
「こいかぜ」もまたその1つで、
・ アイドルのソロ曲なのにバックに管弦楽
・ クライマックスで聖歌を想起させる合唱団
・ あと早見沙織さんの歌唱がめちゃくちゃ上手すぎる
…と、ソシャゲのキャラソンという概念をぶっ飛ばすクオリティとなっています
で、2017年に行われたゲーム内投票で、高垣楓はなんとキャラクターとソロ楽曲の両方が1位というとんでもない記録を叩き出してしまいます*1
結果、更にパワーアップした「こいかぜ」の再録が行われることとなりました
それが新録アルバム『こいかぜ -彩-』です
アルバム『こいかぜ -彩-』は「序章」「花葉」「紺碧」の3部構成なのですが、とりあえずこちらをご覧ください
これは2曲目「こいかぜ-花葉-」のコーラス隊の収録風景です
キャラソンに入れる気合じゃねえよ!
バックは金管が追加されフルオーケストラです やはりHrは木管
そしてこれが一番筆者のテンションを爆上げさせたのですが、CDには30ページを超えるブックレットが付属しておりその半分以上がスコア(総譜)です
つまり演奏しようと思えばできる!!!!! ただし何故かPerc.が譜面にありません…打ち込みなんかな…
ゲーム音楽や劇伴のように、複数回演奏されることを目的としていないオーケストラ楽曲は、一般人がスコアを手に入れる機会がほとんど無いように思えます
「人の楽曲を演奏会で披露する」なんてことが難しいのは当然ですが、個人が気に入った楽曲の構造を知ることができたり、団内で良い曲を演奏して楽しんだりすることが出来ないのは、個人的に残念なんですよね
そんな中こうして譜面を公開してくれたことは、本当に革新的で素晴らしいと感じます 日本コロムビア万歳
長いですね この調子でいつもレポートの筆も進めば良いんですが
・ 楽曲オタクが入りやすいオケ曲、
・ オケ民が入りやすいゲーム音楽
これらの視点から4タイトルを眺めてみました
振り返ると作曲家周りの話が多いですが、ある意味当然ですね
ゲームオタクとしても元コンマスとしても、「この作曲家が好きだ」と思えることが音楽の知見を一気に広げることって多いように感じます
それに共感してくれる方々が、自分の知るジャンルを超えた音楽に出会うきっかけになれば幸いです
以上です では
*1:厳密にはキャラクター投票はソシャゲの「アイドルマスター シンデレラガールズ」、楽曲投票はそれを基としたリズムゲーム「スターライトステージ」内での総選挙結果です まあ似たようなもんやろ…